2012年4月11日水曜日

「日本の電力事情を考える」


わが国発送電の歴史
 日本の電気事業は明治16年(1883年)に設立された東京電灯に始まり、3年後の明治19年に日本初の電力会社として営業を開始した。東京電灯は火力発電所を日本橋茅場町や麹町など都内5カ所に建造した。明治27年、日清戦争が始まると電力不足はひどくなり、翌年、集中発電所として浅草発電所を完成させた。この浅草発電所の発電機はドイツのアルゲマイネ社製で50Hzの発電機であり、同時期に関西の大阪電灯が採用したのはアメリカのGE社製の発電機で60Hzであった。そのために、日本の電気は関東地区と関西地区で電源周波数(ヘルツ)の違いが残っているのである。
 明治19年に東京電灯が開業したあと、日本各地に雨後の筍のように電力会社が誕生した。

 まず火力は、神戸電灯(明治21年)、大阪電灯(22年)、京都電灯(22年)、名古屋電灯(22年)、品川電灯(23年)、横浜共同電灯(23年)、深川電灯(23年)、帝国電灯(24年)、熊本電灯(24年)といった具合である。

 一方、水力発電の元祖は、明治25年に送電が始まった京都疎水発電所であり、以下、箱根電灯所(25年、水車)、日光電力(26年、大谷川)、豊橋電灯(27年、豊川支流)、前橋電灯(27年、天狗岩用水)、桐生電灯(27年、渡良瀬川支流)、仙台電灯(27年、広瀬川)、福島電灯(28年、須川)などが次々に誕生したのである。
 日本各地に乱立していた電力会社は、日露戦争以降合従連衡を繰り広げた。

 明治40年に東京に初めて水力発電による電気が送電された。山梨県の桂川の駒橋発電所から東京まで80キロ運ばれた電気であった。この時点で電力は消費地につくるローカルな産業ではなくなり、以後、大規模な買収と合併が始まったのである。この結果、大正時代になって5大電力会社が誕生した。東京電灯、東邦電力、大同電力、日本電力、宇治川電気である。
 この5社による「電力戦争」と呼ばれる苛烈な戦いが始まった。九州北部、近畿、中部に及ぶ事業エリアを誇っていた東邦電力(「電力王」と呼ばれた松永安左エ門が社長)は、本社を東京に設置した。昭和2年、子会社の東京電力を使って、東京電灯の事業エリアに乱入し、わずか1年ほどで、90万の電灯と12万6000KWの電力を確保し、これによって他社� �のダンピング競争が始まり鉄道省や東京市への政治工作、郊外電車や発電所の奪い合いが起こった。
  東京電灯が名古屋進出を目論むと、今度は関西の日本電力が京浜工業地帯に進出(昭和4年)。東京電灯は紳士協定を結んでいた中部・関西の大同電力(松永と同様電力王といわれた福澤桃介社長・福澤諭吉の養子)とより強固な同盟を結ぶものの、すぐに顧客の奪い合いで裁判闘争が始まるといった感じであった。 

 こうした争いは、単純な民間企業同士のシェア争いという側面に留まらず、その陰には当時の政治状況が絡んでいた。しかし、電力戦争は戦時体制とともに国家が統制すべきであるとして昭和13年「電力管理法」が制定された。その結果、昭和14年4月に発電および送電設備は半官半民の企業である「� �本発送電」の管轄とされた。さらに昭和16年8月には首都圏における送電事業を関東配電に移管させたのである。

電力10社による独占体制が出現

 昭和17年4月、国家総動員法と配電統制令によって9配電体制が確立した。
 太平洋戦争終結後、GHQによる再編命令により紆余曲折を経て、昭和25年
11月に電気事業再編成令と公益事業令が公布され、昭和26年5月1日、関東配電の営業地域を引き継ぐ形で発足したのが東京電力の今日に至る経過である。 
 この結果、日本発送電は現在の9電力会社(後に沖縄を入れて10社)に分割されることになった。10社とは、北海道電力、東北電力、東京電力、北陸電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力である。

電力業界のあらまし
 わが国の電力会社には、一般の需要者に電力を供給する10社以外に卸電気事業者が2社存在する。(一般電気事業者に電� ��を供給する事業者のうち200万KW超の発電設備を有する事業者)
 ・電源開発株式会社(J-POWER)
 ・日本原子力発電株式会社

 この他にも地域によっては自治体が発電していたり、電気事業法の改正により自由化が進み民間参入が増え続けている。

電力事業民営化の流れ
 日本の電気事業は、一般電気事業者による地域独占体制が続いてきたが、1995年(平成7年)の電気事業法の改正を受け、発電部門の自由化、小売部門の部分自由化が導入されるなど、その体制は大きく変化してきた。
 電気事業法改正に伴う電力自由化により、電力会社に卸電力を供給する独立発電事業者の参入が可能になり、また大型ビル群など特定の地点を対象とした小売供給が特定電気事業者として認められた。� ��れにより、異業種からの電気事業への参入が相次いだ。
 現時点で、事業として電力供給に参加している事業者は下記の4種ある。
卸電気事業者 (2社)
 一般電気事業者に電気を供給する事業者で、200万KW超の設備を有する者。

卸供給事業者 IPP( Independent Power Producer)
 公営27社、民営18社
 一般電気事業者に電気を供給する卸電気事業者以外の者で、一般電気事業者と10年以上にわたり、1000KW超の供給契約、もしくは、5年以上にわたり10万KW超の供給契約を交わしている独立系発電事業者等。

特定規模電気事業者(5社)PPS (Power Producer and Supplier)
 契約電力が50KW以上の需要家に対して、一般電気事業者が有する電線路を通じて電力供給を行う事業者(小売自由化部門への新規参入者)


PCBはどのように危険です。

特定電気事業者(48社)
 限定された区域に対し、自らの発電設備や電線路(送配電設備)を用いて、電力供給を行う事業者。
 (府庁が受電している電力はエネットでNTT・大阪ガス・東京ガスの合弁会社)
日本の電気事業者(一覧)
卸電気事業者   電源開発 ・ 日本原子力発電
卸供給事業者 公営 北海道企業局 ・ 秋田県 ・ 岩手県 ・ 山形県 ・ 新潟県 ・ 栃木県 ・ 群馬県 ・ 埼玉県企業局 ・ 東京都交通局 ・ 神奈川県企業庁 ・ 山梨県企業局 ・ 長野県企業局 ・ 三重県 ・ 富山県 ・ 金沢市企業局 ・ 京都府 ・ 岡山県 ・ 鳥取県 ・ 島根県 ・ 山口県 ・ 徳島県 ・ 愛媛県・ 高知県 ・ 福岡県 ・ 大分県 ・ 熊本県 ・ 宮崎県
その他 北海道パワーエンジニアリング ・ ほくでんエコエナジー ・ 新日本製鐵 ・ 酒田共同火力発電 ・ 常磐共同火力 ・ 東星興業 ・ 相馬共同火力発電 ・ 東京発電 ・ 住友金属工業 ・ 鹿島共同火力 ・ 君津共同火力 ・ 黒部川電力 ・ 日本海発電 ・ 和歌山共同火力 ・ 瀬戸内共同火力 ・ 住友共同電力 ・ 戸畑共同火力 ・ 大分共同火力
特定電気事業者 諏訪エネルギーサービス ・ 東日本旅客鉄道 ・ 六本木エネルギーサービス ・ 住友共同電力 ・ JFEスチール
特定規模電気事業者 ダイヤモンドパワー ・ 丸紅 ・ イーレックス ・ 新日鉄エンジニアリング ・ エネット ・ サミットエナジー ・ 大王製紙 ・ サニックス ・ JX日鉱日石エネルギー ・ エネサーブ ・ F-Power ・ 太陽光発電設備 ・ 光発電・グリーン電力販売機構 ・ スペクトルパワーデザイン ・ パナソニック ・ 王子製紙 ・ 極東エレテック ・ ダイトーシステムインターナショナル ・ 日本テクノ ・ 昭和シェル石油 ・ JENホールディングス ・ 日本風力開発 ・ オリックス ・ 泉北天然ガス発電 ・ やまがたグリーンパワー ・ グリーンESCO ・ 荏原環境プラント ・ 関東ロジテック協同組合 ・ 出光グリーンパワー ・ 東京エコサービス ・ G-Power ・ プレミアムグリーンパワー ・ テス・エンジニアリング ・ エムアンドディーグリーンエネルギー ・ 武蔵野ホールディングス ・ 日本セレモニー ・ 伊藤忠エネクス ・ 島忠 ・ 二又風力開発 ・ 日産自動車 ・ 慧通信技術工業 ・ 遠隔検針協会 ・ 馬車道 ・ ミスターマックス ・ コスモ石油 ・ サン・レイン・ジャパン   (日本電気協会発行『電気事業便覧』)


電気の種類 ‐1‐
直流と交流
 電気には交流と直流の2種類ある。「直流」はプラス・マイナスが常に一定している電流であるのに対し、家庭で一般に使われている「交流」は1秒間にプラス・マイナスが50回変わる方式と60回変わる方式の2種類ある。これを周波数という。この関東と関西の2つの拠点から周波数の違う電力供給がネットワークとして日本全国に広がって行ったのである。当時から政府は、将来はいずれか一方に統一すべく検討されていたが、電力ネットワークの全国展開が政府の想定よりも早く、統一に伴う膨大な費用負担が困難な状況になり、結局、統一されずに現在に至っているのである。
 今回の大震災により福島原発が被災し電力不足が深刻化しており、被害のなかっ� ��関西地区からの応援送電をしようとしても周波数が違うために相互に融通しあうことが出来ないのである。周波数を変換する設備は存在するが、変換容量が少なく、その設備の増設には膨大な費用が掛かるので相互に応援送電が出来ないのである。
50Hzと60Hzの違いは、使用する電気機器に影響を及ぼすが、電化製品の進歩によって内部にインバーターといわれる機器を内蔵しており実際に使用する場合はほとんど問題なく使用できるようになっている。因みに直流を交流に変換する機器をコンバーターと呼ぶ。
パソコンなどの電子機器は、直流で作動しており、交流の100V電源に接続して使用するときは、機器の内部で交流を直流に変換しているのである。

電気の種類 ‐2‐
単相と3相
 電気の種類にはこの他に、単相と3相がある。この種別は専門的であり説明は難しいが、一般的には単相より3相の方が強力な電力となり工場などの動力として使われている。
 また、家庭用電力にも100ボルトと200ボルトがある。給湯器やIHなどは200ボルトを使う。その理由は、ワット=ボルト×アンペアであるから、100ボルトより200ボルトの方が大きなパワーが得られるからである。

東京電力と関西電力の比較
 東京電力の歴史については前述したが、関西電力について見てみると、その規模はかなり違うようだ。
 関電のあらましは次の通りである。 
 昭和26年に松永安左エ門(電気事業再編成審議会委員長)が、戦時における企業統廃合等によって発足した関西配電と 日本発送電を再編する形で設立されたのが関西電力である。このため現在も一部の年配者には関西電力を関西配電(カンパイ)と呼ぶ人がいる。

 戦前まで近畿地方を拠点に全国展開していた大同電力、宇治川電気、日本電力、東邦電力の流れを汲み、資産を継承している関係上近畿地方以外の発電所などの設備を多く持つ。
 歴史的な工事と言われ映画化された富山県の黒部川流域などに、最大出力30万KW超の大型の水力発電所も所有する。

関西電力の企業概要

資本金 4千893億2千万円
大株主上位5社  大阪市
日本生命
日本トラスティサービス信託銀行

神戸市

日本マスタートラスト信託銀行

売上    連結 2兆7千697億円
営業利益 連結 2千738億円
純資産  〃   1兆4千948億円
総資産  〃 7兆3千101億円
従業員数 22,143人

関電の発電内訳

水力発電   黒部川第四など148ヶ所 818万kw(23.5%)
火力発電   12ヶ所  1,690万kw     (48.5%)
原子力発電  3箇所 美浜、大飯、高浜 976万kw (28%)
太陽光発電所  堺太陽光発電所
合計 163箇所 3,484万kw


importância DOニュメロ·デ·プラントル

東京電力の企業概要
資本金          9千9億7千500万円
発行済株式総数       16億701万7千531株
大株主上位5社   日本トラストサ−ビス信託銀行
          第一生命
          日本生命
日本マスタートラスト信託銀行
東京都
売上高 連結    5兆3千685億3千600万円
総資産 連結   14兆7千903億5千300万円
従業員数  連結  53,036人  単独 36,733人

東電の発電内訳
水力発電所 160箇所      852万kw    (3.3%)
火力発電所 26箇所   3,637,1万kw   (59.3%)
原子力発電所 17箇所  1,730,8万kw   (26.7%)

【福島第1 1・2・3・4・5・6号機・運転停止中
福島第2・1・2・3・4号機・運転停止中
柏崎刈羽1・2・3・4・5・6・7号機・アンダーライン分のみ稼動中】
          合計 6,476.8万kw

原子力発電に依存している割合
世界主要国の発電方式別電力シェア
アメリカ (3兆8,037億KW)
原子力20% ガス18% 石炭51% 水力8% 石油2%
中国   (1兆1,345億KW)
  原子力2% ガス0% 石炭77% 水力18% 石油3%  
日本   (1兆362億KW)
  原子力27% ガス22% 石炭27% 水力11% 石油13%
ドイツ  (5,524億KW)
 � ��原子力29% ガス10% 石炭51% 水力9% 石油1%
フランス (5,069億KW)
  原子力79% ガス4% 石炭5% 水力12% 石油1%
イギリス (3,566億KW)
  原子力23% ガス40% 石炭33% 水力3% 石油2%
スエーデン (1,582億KW)
  原子力46% ガス0% 石炭3% 水力49% 石油2%
出典:IEA ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES(2001-2002)、「世界の統計2004」ほか

わが国原子力発電所の現状(2011年6月9日現在)
 日本の原発は合計で54基ある。このうち35基は東日本大震災や定期検査や、要請により自主的に運転停止している。現在運転中の19基の原子炉も定期検査を受けることになれば順次停止する可能性がある。また、検査終了時点で運転を再開するかどうかは不透明である。
政府の試算によれば、原発が再稼動できない場合火力に置き換えると年間3兆円の燃料費がかかるとされている。日本経済センターによると、そのためにCO2の排出量は年間75,000トン増えると試算している。(読売新聞6月9日)

原発をめぐる各国の動き
◎ドイツは約29%の発電量を原発に依存しているが、メルケル首相は2022年� �でに原発全廃を決定した。これを受けてドイツ国内では電力関連企業は原発の運転停止決定の無効を求めて提訴するに至っている。
◎スイスは所有する5基の原発の運転更新や改修をせず、34年までに廃炉とする方針を決定した。
◎イタリアのベルルスコーニ首相はは電力を輸入に頼っている現状から抜け出すべく原発開発を考えていたが国民投票の結果、脱原発に方針変更せざるを得なくなった。
◎フランスのサルコジ大統領は、資源の乏しい国だけに原子力利用を早くから研究し、約79%の電力を原発から確保しており、引き続き原発の開発を進めると明言した。

ドイツやイタリアが脱原発を簡単に決められるのは、両国に限らずヨーロッパでは送電線やガス・石油のパイプラインが国境を越え網の目のように張� �巡らされており隣接国からエネルギーそのものを輸入できる関係にあるからである。
フランスは原発による電力の輸出国である。ドイツやイタリアなどは近隣諸国から電力を融通し合える国際環境にあるが、日本にはこれらの代替策はなく根本的に事情が違うのである。従って、日本も脱原発をすれば代替電力をどのように確保するのかが問題となるのである。

さて、わが国では安定した電力を供給するために、どんな方法があるのだろうか。わが国の電力事情を精査し原発も含め電力確保の方法があるのかどうかを考えてみる必要がある。

脱原発のエネルギー政策
再生可能エネルギーとは何か
政府は再生可能エネルギーの推進を強く推し進めようとしているが、再生エネルギーとは、石油などの化石� �料を燃やさず永続的に使うことができるエネルギーを指す。具体的には風力、太陽光、太陽熱などの自然エネルギーと、生ゴミ、廃熱や植物から抽出した燃料を利用するリサイクルエネルギーなどを指す。

政府は昨年6月に「エネルギー基本計画」を閣議決定し、再生エネルギーの普及促進は図ろうとした。この計画は今回の原発事故とは関係なく、鳩山首相時代の温室効果ガス排出量を25%削減目標を形にしたものである。
この計画では全体の6割を占める火力発電から脱却を進め、国内54基の原発を30年までに14基増設し発電比率を27%から50%に高め、さらに再生可能エネルギーを20%に引き上げることを明記している。
ところが福島原発の事故で原発の増設が困難になったので再生可能エネルギー政策� ��見直し2020年代早期に再生エネルギーを20%にすべく前倒しすることを決定した。しかし、政府が重視する再生可能エネルギーを確保するためには大規模太陽光発電や風力発電への新規参入に加え、情報技術を駆使して発電量を制御するスマートグリッド(次世代送電網)などの新規産業が必要となるが、現実には発電効率が悪く、膨大な設備投資が必要となる。

さらに太陽光や風力発電に対しては同じ電気でありながら買い取り料金に差をつけている。具体的には太陽光発電の場合は1KW当たり40〜42円、風力などは15円〜20円を基準にして決められるのである。太陽光も風力も自然条件に左右されるだけに発電密度が低く発電コストが割高な上に政策誘導のために一般需要者に電気料金の上乗せするため理解さ� ��難い問題点がある。
安定した電力供給が揺らぐと企業は生産の安定を求めて海外に移転する可能性があることや、電気代の高騰が国際競争力を損わせる問題もある。
再生エネルギーの開発を推進しても現実にはその総量は微々たる量である。
各国の例を見ても再生可能エネルギーによる発電はデンマークを除きそんなに多くはない。
2009年のEU諸国の消費電力に占める風力発電の割合は次の通りである。


なぜブログullegalは
デンマーク   24,9%
スペイン    15,3%
アイルランド  13,0%
ポルトガル   11,4%
ドイツ      8,6%
イギリス     3,3%
イタリア     3,2%
フランス     2,2%
EU平均     5,3%
日本       0,3%  (日本風力発電協会)

 再生可能エネルギーは一般的に言って、費用対効果を考えると前途遼遠な感じは拭えない。
河野太郎は雑誌『世界』で、原子力利権の構造が強固なことや自民党の過去の政策の誤りを認め、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの活用とそれによる地域経済の活性化への路線転換を訴えているが、こんな次元で解決するほど簡単な話ではない。電力の自由化のためには発送電の分離が必要であるとされているが、そのあらましは次のとおりである。

発送電の分離とは何か
 日本では発電から送電、配電まですべてを10電力会社が独占運営している。
 発送電分離論の根拠は電力自由化で身近な電力会社が参入しやすくなったが送電線を所有管理しているのは10電� �で、送電線使用に対して費用は勿論、各種の制約がある。簡単に言えば送電線に電気を逆流させることに技術的な制約と問題があるのだ。
これらをクリアーさせるために、従来は地域ごとに電力会社が発電設備や計画を一手に引き受けて供給していた「集中型エネルギー供給」から、環境問題や電力需要の増加に対応するため「分散型電源」といわれる電源が注目されるようになってきた。すなわち、消費地の近くに分散して発電する小規模な発電設備が増えるに従い、送電に関しても集中型と分散型の連携が必要になってきたのである。
 家庭での太陽光発電は曇りの日や夜間には発電できないので電力会社から供給を受け、家庭で余った電力を会社に販売するシステムが既に実用化されている。
 今話題になっている「スマ ートグリッド」とは賢い送電網と言われるように、一般家庭や企業、地域が持つ分散型電源と電力会社の集中型電力設備をネットワーク化し電力を効率よく管理するシステムのことである。
 専門的なジャンルであるが、送電線は需要者側から送電網へ電気の逆流には弱いとされており、太陽光やその他の再生可能エネルギーの発電量が増えると逆流量が増え現在の送電網では対応が困難であるとされている。送電・配電にもフルに情報通信技術を活用するシステムが必要となり、このような新しい送電システムの構築を含め発送電分離論が台頭しているのである。
 また、送電線は本来市場原理や競争に馴染まないものであり、本来公有財産にすべきであるとの主張がある。送電線利用を自由化することで電力の自由化がさらに進 むとされており、再生可能エネルギーの普及のために不可欠であるとされている。

どうするのか、これからの原発
 福島原発の事故発生以来、原発そのものの存廃に関して議論が沸き起こっている。この問題を考える前に、既に述べた通り日本の電力の約30%弱を原発に依存していることを忘れてはならない。今夏の電力不足に対応して一律15%の削減が言われているが、15%削減だけでも一般家庭はもとより、企業では生産に大きな影響を及ぼし大企業では生産部門を海外に移転させる動きが顕在化してきた。
 反原発を唱えるのなら現在の電力を30%削減することを容認するか、化石燃料による発電の増強による燃料費の値上げ、CO2の増加を覚悟しなければならないのである。
 電力不足が� ��常化すれば産業構造の空洞化を招き、就労人口の減少を伴い失業率が増えることになるが、この問題をクリアーできるのだろうか。
 被爆を経験した国民だからかもしれないが、原発の事故については必要以上に過敏になっているの傾向が日本人にあるようだ。
 原発は絶対安全だと言われ続けたのも事実であるが、今回の事故のように安全率をはるかに凌ぐ「想定外の出来事」が起きてしまったのは大変不幸なことであるが、これを乗り越える対応が可能かどうかも問題なのである。

防災と減災
 自然界の営みには人間の想定外のことがある。防災対策の必要性は言うまでもないが、自然界の営みに対して防災には限度があることを今回の災害で知らされた。だから防災も大事だが、不測の事態に対して� �いかに「減災」するかが重要であることを知った。自然界の営みに対して人間の力を過信してはならないし、津波に対して土木工事だけだは防げないことも思い知らされた。
 できることならリスクが高い原発から逃れたい。発電施設だけでなく原子力には廃棄物と言う桁違いに困難な問題がある。日本では廃棄物に対する最終対応策が確定していないのも大きな問題である。
然らば、どうするのかが問題なのである。

脱原発か、反原発か
 この問題に対して各界各層からいろんな意見が発せられているが、脱原発はあたかも世論の流れの如く受け止められつつあるが、反原発では日本は完全に埋没するのではないかとの指摘もある。脱原発と反原発とは大きく違うのである。

以下に識者の見解を紹介したい。
 � �発に関して、巨大な危機をはらむと同時に多大な便益をもたらす先端技術を「感情において恐れを覚えつつ、理屈において認めざるをえない意識の分裂症状を呈している」と西部邁は言う。彼はまた「安全と生存のことのみに留意し、独立と自尊に配慮しないのは、国家においてであれ、個人においてであれ下等な振る舞いである」と説き、「再生可能エネルギーは中長期の夢物語とは言わぬが、中長期の希望に留まる。石炭やガスの廉価安定供給が困難だということを考えると原発廃止を唱導するのは、甘やかされた坊ちゃんの戯言に聞こえる」と厳しい指摘をしている。(WILL8月号)


 原子力の平和利用についても世界で唯一の被爆国だから、核アレルギーがあるようだ。やがてノーベル文学賞を受賞するのではないかと噂されている村上春樹が早速この問題に対し、先日のスペインのカタルーニャ州国際賞授賞式でのスピーチで「核に対するノーを叫び続けるべきであった。私たち日本人が自らの手で過ちを犯した」と述べているのは驚いた。2011年6月10日の彼のスピーチの全文はネットで発信されているが、西尾幹二は早速これに対し「事故は過ちであろうか、広島・長崎と福島をこんな形で簡単につないでよいのだろうか。過ちを犯したのはアメリカであり、事故は天災によってもたらされたのだ」と指摘している。
 村上春樹がなんと言おうと、核の平� �利用を悪であるとす発想は短絡そのものであり、それはあたかも自動車は事故を起こすから悪だと言うに等しい発想である。しかし、原発の事故によって避難を余儀なくされた人たちは本当に気の毒であり一日も早い収束を願わずにはおれない。しかし、だからといって日本のすべての原発を廃棄すべきだと主張するのは短絡であり間違いだろう。
 福島原発は再生不可能であり、完全収束には50年くらいの歳月が必要だろうと報じられていた。他の原発は今回の事故を踏まえて徹底的な安全策をとるべきである。原発に変わる発電源として再生エネルギーをさらに開発することは重要であるが、費用対効果の面からも代替電源とはいえないのが一番悩ましい点である。

 30%弱を原発に依存している発電を一番手っ取り早く 代替させられるのは火力発電しかない。しかし、火力発電で原発を代替させるとすれば前述したように年間3兆円の燃料費が必要であり電気料金の値上げは避けられそうにない。現代社会は電力の3割カットに耐えられる社会構造ではない。さすれば値上げに応じるのか、CO2の排出に耐えるのかなども考慮した上で原発問題を考えるべきである。

原発は国家管理にすべきである
 こんなことを考え合わせると「想定外の自然界の動き」に対応するために、一企業に原発の運営を任せるのではなく原発は国営で行なうべきであるとの見解は説得力がある。(三橋貴明経済評論家、前田匡史内閣官房参与ほか)
 河川改修は200年対応と称し、200年に一度起きる危機に対応する管理体制が必要であるとされ� �いるが、平時には過大投資と思われ、なかなか理解されないのである。「スーパー堤防」を巡り仕分けをした蓮舫と石原都知事の対話は興味深かった。
地震国であるわが国で原発を維持しようとすれば、民間企業ではなく国の責任において維持管理 及び運営をすべきであろう。
 次元が違うが、迷走を続ける菅政権はまたぞろストレステストをすると言い出し経済産業相と軋轢を生んでいる。何を考えているか分からないお人だけに「脱原発選挙」をやるかもしれないとの懸念がある。小泉純一郎が「郵政選挙」を断行し大勝利を得たが、今度は「脱原発選挙」をやるのではないかと噂されている。
 民主党の岡田幹事長は「シングルイッシュ(単一課題)の解散、総選挙はやるべきでない」と明言し、前原前外相は「ポピュ リズム(大衆迎合)政治はいけない。一時的な国民受けを当てにするのは絶対に慎むべきである」と首相を牽制しているが、菅は聞く耳を持っているのだろうか。
 わが国の将来が電力事情によって左右されかねない事態に如何に対応するかが問われているのである。                 (文中敬称略)

平成23年7月
松 室   猛
参考文献 「電力会社の仕事」(社)日本電気協会・電気新聞編
「発電・送電・配電が一番わかる」福田 務

電気事業連合会・電気の情報広場

経済産業省HP・「WILL」8月号他

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《 資 料 》

過去における原子力関係施設の事故

東関東大震災の影響を受けて、世界的に原発をめぐる対応が大きく変わってきた。しかし、原発の事故は今話題の福島原発が初めてではなく、過去にも大きな事故が二つあった。これ以外にも原子力関係施設の事故は、以下のとおりである

・ 1957年9月29日 ソビエト連邦ウラル地方における原爆製造過程における事故があった。この事故は当時は極秘とされていたが西側に亡命した科学者、ジョレス・A・メドベージェフが1976年に発表して知られることになった。

・ 1957年10月10日ウィンズケール火災事故 。世界初の原子炉重大事故

イギリス北西部の軍事用プルトニウムを生産するウィンズケイル原子力工場の原子炉2基が過熱により火災が発生、16時間燃え続け、多量の放射性物質を外部に放出した。避難命令が出なかったため、地元住民は一生許容線量の10倍の放射線を受け、数十人がその後白血病で死亡した。現在のところ白血病発生率は全国平均の3倍である。当時のマクミラン政権が極秘にしていたが、30年後に公開された。

・ 1961年1月3日、アメリカのアイダホフォールズ海軍の軍事用の試験炉。運転出力は軍事基地のための暖房としての熱エネルギーとして400 kw、電気出力として200 kwの合計600 kwであり、設計出力は3 MWであった。

・ 1963年10月、フランスのサン・ローラン・デ・ゾー原子炉で燃料溶融事故
・ 1966年10月5日、アメリカデトロイト郊外にあった高速増殖炉試験炉エンリコ・フェミル1号炉が炉心溶融を起こし閉鎖された。


・1979年3月28日 スリーマイル島原子力発電所事故
アメリカ・スリーマイル島原子力発電所の炉心溶融事故。レベル5の事故であり、不完全な設備保全、人間工学を重視していない制御盤配置、そして中央制御室運転員の誤判断等が重なって発生した。当初は外部へ放射性物質が大量に放出されたとの報道もあった。この事故の影響により、アメリカ政府は新規原発建設中止に追い込まれた。アメリカではこの事故を契機にトラブルや運転等の情報を共有する組織としてアメリカ合衆国原子力規制委員会 (INPO) が結成され、その後の原子力発電所の安全性向上に寄与することとなった。

・1986年4月26日、チェルノブイリ原発事故
ウクライナ共和国チェルノブイリ原発4号機が爆発・炎上し、多量の放射性物質が大気中に放出されたレベル7の深刻重大な事件。事実上、史上最悪の原子力事故である。放射性物質は気流に乗って世界規模で被曝をもたらした。直接の死亡者は作業員・救助隊員の数十名だけであるが、がんなどの疾病を含めると、数万から数十万にのぼるとされていた。2005年に発表された世界保健機関 (WHO) 等の複数組織による国際共同調査結果では、この事故による直接的な死者は最終的に9,000人との評価もある。2000年4月26日に行われた14周年追悼式典では事故処理に従事した作業員85万人のうち、5万5,000人が死亡したと発表されており、WHOの評価とは大きく食い違っている。この事故を契機に国際的な原子力情報交換の重要性が認識され、世界原子力発電事業者協会 (WANO) が結成された。

参考資料

水力発電の発電量    黒部第4発電所 33,5万キロワット
火力発電 〃  富山新港  150万キロワット
福井県の原発  敦賀1号機 35,7万キロワット
〃2号機 116万キロワット(日本原子力発電)
美浜1号機 34万キロワット
〃 2号機 50万キロワット
〃 3号機 82,6万キロワット
大飯1・2号機 117,5万キロワット
〃 3・4号機 118万キロワット
高浜1・2号機 82,6万キロワット
〃 3・4号機 87万キロワット

東京電力は、夜間の電力で水を汲み上げ、昼間流して発電する揚水発電をフル稼働すれば、計画停電は避けることができたのに、コスト増を嫌がり、電力供給の義務を果たさなかったと指摘もある。



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