日本弁護士連合会│Japan Federation Of Bar Associations:留学体験記
1 留学のきっかけ
弁護士があふれかえっているといわれているアメリカにも、弁護士過疎の問題はあるのだろうか。この疑問から、私の留学生活が始まりました。
私は、2001年から2年間、北海道紋別ひまわり基金法律事務所に赴任しました。任期終了後、東京に戻った私は、弁護士過疎対策の今後について意見を求められる機会を多く持ちました。その際、海外との制度比較を通じた長期的な展望の検討が必要であると感じましたが、この問題に関する海外情勢の資料は、皆無といっても過言ではない状況でした。そこで、自ら現地に乗り込んで集めるしかないと、留学を目指すことにしました。
日弁連の制度は、ひとつの研究テーマを追求する留学スタイルを希望していた私にとって、ベストの選択でした。
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2 Visiting Scholar として
私が所属したLaw School内の「法と社会研究センター」には、世界中から法社会学の研究者10数名がVisiting Scholarとして滞在していました。年齢層は30代から70代、肩書きは世界的に著名な研究者から私のような実務家、駆け出しの講師まで、バラエティに富んだメンバーで、互いがそれぞれの専門分野に関心を持って議論できる環境は、非常に刺激的でした。日本の法律家についてバックグラウンドのない同僚達に対して、具体的に弁護士過疎地での仕事ぶりをイメージしてもらうことは決して容易ではなく、当初は、うまく伝えられずに話が終わってから後悔するという繰り返しでした。しかし、この経験は、後述する弁護士へのインタビューの際、大いに役立ちました。
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3 授業の聴講
Visiting Scholarは、担当教授の許可を得て授業を聴講することができます。聴講した授業のうち、秋学期のLaw & Social justice(法と社会正義)と春学期のRestorative Justice(修復的司法)はとくに研究テーマになじむ講義でした。いずれも学生数15名程度のゼミ形式で、週1回、2時間30分行われました。担当教授は、大学卒業後、扶助団体のスタッフ弁護士として弁護士過疎地で数年働き、その後、カリフォルニアの地方中核都市で開業し、30年近く貧困層のために戦い、多くの画期的な判決を獲得してきた経験を持つ方でした。
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秋学期のLaw & Social justiceの目的は、未曾有の格差社会に遭遇しているアメリカにおいて、問題に果敢に立ち向かう法律家としての姿勢を学ぶことでした。人種差別、男女差別、教育、労働、生存権、政治と金、裁判官選任システム、社会正義弁護士の働く場、憲法訴訟の立証の戦略といった具体的テーマについて授業が続きました。さらに、学生には、授業出席に加え、興味のある分野についてケーススタディを行い、学期末に成果を発表することが要求されます。私も日本での弁護士過疎解消の活動について報告する機会をもちました。学生も教授も、ひまわり基金制度が、弁護士過疎問題に全国的に取り組むスキームとしては、機能的で優れたものだと感心していました。
春学期のRestorative Justiceでは、犯罪被害者と加害者の対話の問題を扱うにとどまらず、新たな紛争解決システム構築について、コミュニティの再生などにまで視点を広げて、徹底的な検証がなされました。地域密着の弁護活動のあり方を考えたい私にとって、示唆に富んだ内容でした。授業の目玉は、死刑執行が行われているSan Quentin刑務所の訪問で、被害者との対話プログラムに参加している10人あまりの受刑者と、数時間にわたってひざを交えて対話することができました。受刑者と直接かかわる特別な企画に、外国人を受け入れてくれたことに、アメリカの寛容さを感じました。
4 フィールドワーク~インタビューを中心に~
研究については、上記の教授から、数人の弁護士の紹介を受け、彼らを訪ねてインタビューをするというフィールドワークを中心に据えました。単位の取得にとらわれず、自由に時間を使える、この制度の良さを存分に生かすことができました。
主要な訪問先は、カリフォルニア州の過疎地域を中心に活動している扶助団体でした。同州では、ロサンゼルス、サンフランシスコなどの海岸部大都市に弁護士が集中し、セントラルバレーと呼ばれる内陸部の農村地帯などでは弁護士が不足しており、これらの地域の貧困層に対する法的サービスの不足は深刻な問題になっていることがわかってきました。そこで、大都市にある各扶助団体の本拠地を訪ねるとともに、さらに人口数万人足らずの地域の扶助団体の支所を訪ね歩きました。
各地で目にした、使命感に燃えて忙しく働く弁護士たちの姿は、日本の公設事務所の弁護士や法テラスのスタッフ弁護士と共通するところがあり、国境を越えて共感と感動を覚えました。依頼された事件を受動的にこなすことに終始するのではなく、貧困層が何を求め、地域に何が必要かについて常にアンテナをはりめぐらせ、行政やNGOなどと協力しながら制度づくりに携わるのが、彼らの標準的な働き方でした。オプションではなく、当然に求められる働き方である点がとりわけ日本と異なるところであり、大いに学ぶべきであると感じました。
5 実りある1年
日弁連の留学に一念発起して応募したことで、予想をはるかに超えた、実りある1年を過ごすことができました。留学経験は、必ず、その後の法曹としての人生を豊かにします。少しでも関心のある方は、応募なさることを強くお勧めします。
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